CES2018から占うスマートスピーカーの今後

日本でのスマートスピーカーの隆盛は、アメリカの後を追う形で進んでいる。ちょうど1年前、2017年のCES(セス)は、Amazonの「Echo」シリーズと、その音声アシスタントである「Alexa」旋風が吹き荒れていた。その流れを受けて、日本を含むアメリカ以外の各国でも、2017年はスマートスピーカーの年になった。

では、2018年はどうだろうか? 今年のCESも、スマートスピーカーと音声アシスタントは大きな軸となるトレンドのひとつだった。その様相は、昨年のような「売れている」という段階を超えた、次の時期に入ることを感じさせるものだった。

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2018年にはアメリカで4300万台以上を販売、家電を牽引か

アメリカでスマートスピーカー市場がどのくらいの大きさなのか? そこからまず入ろう。CESの主催者である全米民生技術協会(CTA)のアナリストによる予測では、2018年に、スマートスピーカーは4360万台が売れる、とされている。これは2017年から60%もの成長率であり、他のどの家電よりも高い伸びを示している。また、スマートスピーカーと連動を前提とした「スマートホーム」製品も、4080万台(前年比41%の成長)と、こちらも好調である。他のジャンルは大きく伸びるものでも20%台の成長であり、スマートスピーカーがどれだけ家電業界を牽引すると期待されているかがわかる。

CTAがプレス向けに配布した、2018年の成長分野一覧。紙資料ゆえ取材中に傷んでしまったので、見苦しい点があることはご容赦を。スマートスピーカーは成長頭とされている。

「Hey Google」がラスベガスを占拠

CES会場に入ると、その印象はさらに深まる。いや、開催地であるラスベガスに入った段階から、そのことをイヤというほど感じざるを得ないのだ。

なにしろ、街中が「Hey Google」に占領されていたのだから。ラスベガスの広告は巨大な動画サイネージになっているのだが、その大半で、数分に一度は「Hey Google」と宣伝が流れる。そして、ラスベガスの中央を走り、CES会場となるラスベガス・コンベンションセンターへと至るモノレールは、「Hey Google」のラッピングだ。

ラスベガスを走るモノレールは「Hey Google」のラッピングに。

「Hey Google」は、いうまでもなく、Googleアシスタントのコマンドワードだ。これまで広告宣伝上は「OK Google」を使っていたのだが、よりわかりやすく親しみやすい「Hey Google」に見せ方をシフトしてきた。

CES会場の外に、Googleは自社専用のブースを作って関連製品を多数展示し、さらには会場各所で、Google Homeなどがあたる抽選会を催していた。そして、Googleアシスタントと連携する製品を展示している企業ブースには「Hey Google」の文字が。完全にCESがGoogleに占領された印象だった。

会場にGoogleが専用ブースを用意。中では、Googleアシスタントに対応した機器が多数展示された。
会場内数カ所では、Google Homeなどがあたるプレゼント・イベントも開催。長い行列ができていた。

CESは過去には「家電展示会」と呼ばれていた。今は自動車や社会インフラも含めた、より多様な「テクノロジーイベント」という形になっているが、それでも「モノ」が中心のイベントであることに変わりはない。だからなのか、ソフト・サービスの会社であるGoogleは、CESで大きなブースを構えてアプローチすることはこれまでなかった。だからこそ、Googleがここまでやるのは意外だった。

では、ライバルのAmazonはどうか、というと、アピールはかなり控えめなものだった。会場の数カ所に垂れ幕を用意しただけだ。一般来場者向けのブースは用意せず、パートナー企業向けの商談ブースがあるだけ。CES会場でのアピールという意味では、Googleの圧勝である。

Amazonはごくシンプルな垂れ幕を用意しただけ。Googleのように巨大なブースを構えることはしていない。

Googleの戦略は「あせり」ゆえ? 周辺機器メーカーは「全対応」をアピール

だが、である。Googleが勝ったといえるのは「宣伝によるアピール」の部分に過ぎない。逆にいえば、これだけ大々的な宣伝戦略を採らないと、Amazonに追いつくことはできない……とGoogleが考えている、という印象を強く受けた。

Amazon・Googleともに正確な出荷台数を公表しないため、調査によって数字に大きなぶれがあるのだが、アメリカ市場におけるスマートスピーカーのシェアでは、AmazonがGoogleを大きく引き離している。Amazonの音声アシスタント「Alexa」を使った製品のシェアは6割から7割と言われており、2割を超える程度とみられるGoogleのそれを上回る「寡占状態」である。

また、CES会場には多数のホームネットワーク機器があふれていたが、その多くはAlexa・Googleアシスタントなどの複数の規格に対応しており、「どれかだけ」という形のものは少ない。また、LGエレクトロニクスやパナソニックは、発表会にて「AmazonとGoogleの両方に対応する」とわざわざ宣言している。音声アシスタントではGoogleと密接な関係を保っているソニーも、会場ブースでの展示では、GoogleアシスタントだけでなくAlexaともソニーのテレビが連携することをアピールしていた。

ブース内で「主要規格のすべてに対応」していることをアピールする企業は多かった。
ソニーブースでは、他社のホームネットワーク機器との連携をデモ。同社のテレビはGoogleアシスタントを使っているが、AmazonのEchoとも連携することをアピールした。

すなわち、アメリカ市場においてはAlexaの存在感は圧倒的であり、Googleとしては、家電に注目があるCESで大きなプレゼンスを出すことが「必須」だったのである。

白物家電との連携をアピールする家電メーカー

というわけで、2018年のCESをスマートスピーカーの視点で見ると、「着実に伸ばしたシェアの上でじっくり展開するAmazon」と「大規模な投資を行って不利を挽回しようとしているGoogle」という図式が見えてくる。

その背景には、スマートスピーカーそのものは家庭への1台目の普及を終え、2台目以降のサイクルに入ろうとしている、という事情がありそうだ。そこでより大切になってくるのは、他の家電といかに連携するかである。特にこの点で力を入れていたのが、白物家電をアメリカ市場でも売っているLGエレクトロニクスとサムスンだ。

LGは「今後、発売する家電のすべてをWi-Fi対応にする」と宣言、自社の家電コントロール技術「ThinQ AI」と音声アシスタントを連携させるやり方を採った。ここで自社製品に搭載する音声アシスタントとしてアピールしたのは、Googleアシスタントである。LGは同社製テレビにGoogleアシスタントを搭載し、家電連携の窓口とする戦略を採る。

LGエレクトロニクスのブース。自社の家電をずらりと揃え、すべてが「ThinQ AI」とGoogleアシスタントで動作する様をアピールした。

サムスンは自社の音声アシスタントである「Bixby」を使い、LGと同様に家電連携を強くアピールした。自社ですべてをコントロールしたい、という意思はよく分かるが、圧倒的に大きな勢力となっているAmazonやGoogleに対抗できるのか、見ていて不安を感じたのも事実である。

とはいえ、LGやサムスン、他のホームネットワーク機器メーカーの提案を見ていて感じたのは、「それがあまり便利そうにも、新しそうにも見えない」ということだ。機器のオンオフが中心で、本当にユニークな連携を実現しているものはまだまだ少ない印象だ。ネットとつながって音声アシスタントを使えるようにするのは、技術的には簡単なことになった。一方で、それをどう使うと新しい価値の提案につながるか、というところまでは、まだ各社とも試行錯誤している段階に見える。

「ディスプレイ付き」も登場、音声アシスタントは「拡散」する

テレビと音声アシスタントを連携させる戦略は、テレビを発売しているメーカーにとっては基本的なやり方となってきた。サムスンはBixby、ソニーはGoogleアシスタントを使う。ソニーのテレビのリモコンには、今後Googleアシスタントの専用ボタンが設けられるほどだ。

ソニーのテレビのリモコンには、Googleアシスタントの専用ボタンが用意される。

テレビと音声アシスタントの関係が広がるのは、リビングには必ずある、ということに加え、音声へのレスポンスを「画面に表示できる」という良さがあるからだ。スマートスピーカーはシンプルかつ安価だが、ちょっと複雑なことをするなら、やはり画面があった方がいい。Amazonはすでに、画面付きのスマートスピーカーと言える「Echo Show」をアメリカなどで販売しているが、テレビで同じことができれば確かにありがたい。

Googleはこのジャンルに対し、「スマートディスプレイ」という製品ジャンルを作ることで対応してきた。スマートディスプレイはLGやソニー、JBL、レノボなどが、2018年後半に製品発売予定している。このうち、実際に製品を展示したのはレノボとJBL、LGエレクトロニクスだ。レノボの製品は10インチモデルが249ドル、8インチモデル199ドルで、今夏の発売を予定している。

Googleのブースに展示された各社のスマートディスプレイ。各社ともに同じようなハードウエアで実現している。

レノボが夏にアメリカで発売を予定している「スマートディスプレイ」。Google Homeにタッチパネル内蔵ディスプレイがついたような構造で、縦/横どちらでも利用可能。

実のところ、スマートスピーカーという存在は「あたりまえ」になり、今度はそこから生まれた「音声アシスタント」の世界がより大きな価値になる。スマートディスプレイはスマートスピーカーの応用製品だが、スマートスピーカーそのものではない。スマートフォンにもテレビにも、果ては洗面所の鏡にも音声アシスタントが内蔵されていくことになるので、スマートスピーカーという存在にこだわらなくて良くなるのだ。

CTAのアナリストの予測によれば、スマートスピーカー市場は2019年にピークを迎え、その後減少していく。これは、音声アシスタント搭載機器の「拡散」により、わざわざスピーカーの形を採る必然性が薄れていくからに他ならない。

CTAアナリストによる、スマートスピーカーの市場予測。2019年をピークに減っていくのは、音声アシスタントがより様々な機器に広がるからだ。

Googleが今年、積極的なアピールをしたのは、スマートスピーカーのことだけを考えてのことではないだろう。間違いなく、「音声アシスタント」という巨大な市場における存在感を、Amazonにはとられたくない……という強い意志があったからだ。

そういう意味では、CESに出展しないアップルとマイクロソフト(マイクロソフトはプレスや関係者向けにクローズドブースを用意していたが、一般向けに公開されたブースはもっていない)は、音声アシスタントの存在感を示すという意味で、かなり弱含みである。よほど優れた製品・技術を消費者に提示しない限り、リビングをAmazonとGoogleに奪われてしまう可能性が高い。

西田宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。取材...

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