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脳研究者・池谷裕二氏に聞く【後編】スマートスピーカーネイティブは何を生む?

“生まれた時からスマートスピーカーがあるのが当たり前”になる子ども達がこれから出てきます 。前編では、Google Homeの子ども達へのポジティブな影響として、アクティブコミュニケーション(話しかけられて答えるのではなく、自分から話しかけるコミュニケーション)を引き出すこと、家族間でのコミュニケーションが増加することなど、スマートスピーカーが子どもに与えるポジティブな側面を池谷先生に語っていただきました。

前編はこちらです▼

後編では、スマートスピーカーやAIが発達したら、便利になって人間は怠け者になってしまうのか、スマートスピーカーネイティブである子ども達が、これからどんな文化をつくっていくのかなどが話題になりました。

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IoTが発達したからといって人間がダメになることはない

我が家では、2歳の娘がいたずらをしてしまうので、Google Homeをソファーの下に隠しています。そうすると部屋全体が我々を助けてくれるような雰囲気が生まれて面白いですよ。そのうちスマートスピーカーやAIが埋め込まれた家が発売されるでしょうね。そういう家があったら住みたいです。

スマートスピーカーと照明を連携させると、口頭で電気を消してと言っただけで電気を消すことができますが、こういうIoT製品とスマートスピーカーの連携はもっと進んで欲しいですね。

帰った時に暖房や冷房がついている、出先からお風呂を沸かすなどができるようになるといいですよね。鍵を忘れても音声認識で家に入れてもらいたいですし。そういうことを言うと、人間が怠け者になるのではないかと言う人がいますが、そんなことはありません。

やることは一杯あります。人間は余計なところに労力を割かずに、本来その人がやりたいことに特化してできるようになります。

たとえば、戦前、昭和初期は洗濯板で衣類を洗っていましたし、火を起こすのだって簡単じゃありませんでした。現代人は忙しいと言われますけど、昭和初期の人間の方が忙しい。洗濯機が発売されてガスが通った時に「こんなに楽をして人間ってどうなっちゃうんでしょうね?」という意見は当然あったんですけど、人間はそこに時間を割くべきでしょうか。

戦前の大人が1日に使える自分の時間は30分だったというデータがあります。それに比べて現代人は平均して、2時間から3時間くらいはテレビを見たり、読書をしたりできる。少なくとも自分自身の生活スタイルをデザインできます。それはいろんなものが便利になったからです。

ここにきてさらに便利になるわけです。スマートスピーカーがあればテレビのリモコンを立ち上がって取りに行かなくていいとかね。時間のセーブでいったら些細なことかもしれませんが、精神的なストレスはかなり変わります。

私の場合は、2人めの子どもができて、仕事の時間に制約ができました。仕事の効率を上げるためにPC入力は音声入力に変えました。専門用語は全部登録してあるので精度は結構いいですよ。結果的に同じ時間で出来る仕事量が2倍とまでは言いませんが、1.5倍にはなりました。そうして空いた時間に何をしているかと言うと、Google Homeで子どもと遊ぶことができるわけです(笑)

人間は、柔軟で柔らかい。何かを失っても新しい能力を獲得していく

便利になるから人間味が薄れるとか、能力が落ちるかというとそうではありません。何かしら失う能力はあるかもしれませんが、新しい能力も身につきます。たとえば、スマートスピーカーやIoT製品があることを前提にしたコミュニケーション能力とかね。

文字が発見された時がそうです。文字ができる以前と以後で、人間の能力は異なります。人類に最もインパクトを与えたテクノロジーの発見は文字ですから。文字に比べたら、インターネットなんて可愛いものですよ。

文字が発見される前までは、すべて暗記していました。祭事や宗教に関するものなどを代々覚えていたので、記憶力が最も重要でした。文字ができて暗記しなくなった時、長老が「最近の若い者は文字に頼ってばかりでいかん、これじゃご利益もない」と言ったと文字で書き残されています。それくらい文字というのは人類を滅ぼすけしからんものだったわけです。

文字ができて人間の記憶力は落ちましたが、じゃあ、文字が悪者かというとそうではなく、文字を使って科学や技術が発展した。これは記憶しなくても良くなったからです。教科書を暗記していたら、小学校6年間が終わっちゃいますよ(笑)それを文字をちょっと覚えれば、他は覚えなくていいとしたのが文字です。文字ができて脳のリソースを違う部分に使えるようになったんです。これは、ある運命からの解放でもあります。必ず暗記に使うように定められていたところから解放されたのですから。

インターネットにより人間の記憶力はさらに低下しています。「Google効果」と名付けられていますが、検索すれば良くなったので、記憶力は落ちています。でもそれと同時に獲得した能力があって、どういうキーワードで検索したら情報を見つけられるのかという情報戦略に関する能力は上がっています。記憶力は落ちたけれども、人間は、それ以上の記憶情報を手にしているんですよね。

今回も同じです。IoT製品が出てきて、そのインターフェースとしてGoogle Homeのようなスマートスピーカーがある。声だけで電気が消せるようになって確かに何かの能力を失うと思うんですよね。その失うものは長老からしたら、人間味の1つであって、それは失ってはいけないもので、AIやIoTは人間をダメにすると言われるかもしれない。でも、それは穿った人間の見方で、人間像というのはカチカチに固まったものではありません。新しい技術が出たらそれを取り込んでさらに別の能力を開発していく位、柔らかい可能性を脳は秘めています。

視覚文化から聴覚文化への揺り戻しがあるかもしれない

私たちの世代は、新しく登場したスマートスピーカーやIoTに”適応”していくだけです。でもスマートスピーカーネィティブとなる子ども達は違います。スマートスピーカーやIoTがあることを前提に新しいことをやるわけですよね。夏休みの自由研究にスマートスピーカーを使うところから始まって、大人になったら、もっと素晴らしいスマートスピーカーがあって。「昔はこんな程度のスマートスピーカーだったんだ」と言われるのももう数年後ですよね。

そういう時代になった時に、スマートスピーカーネイティブは何を生むんでしょうね。

きっと新しいコミュニケーションの形態が生まれるんでしょう。人間は視覚の生き物だと言われますが、現代でこれだけ視覚が重視されるのは、テレビとスマートフォンが原因です。テレビ番組にテロップが出るようになり、テレビも文字を読んで理解する文化になってしまいました。耳で聞いて理解する能力は今衰えています。ラジオとか、全部耳で聞いてギャグなどを理解するのが難しくなっています。

でも、動物界では聴覚が大事です。聴覚は、ものすごく情報量が多いんです。壁の向こうに相手がいる場合、視覚では相手の存在がわかりませんが、聴覚は壁の向こうでも相手がいるとわかりますから。

もしかしたら、スマートスピーカーの登場で聴覚文化へと揺り戻されるかもしれません。

顔の表情によって、口ではこう言っているけれど本心ではない、と読み取ることは重要です。でも声を聞いているだけでもわかりますよね。そういう本音を声だけで読み取るようになるかもしれません。

声は時間という強烈な制約があります。1秒の間に何文字喋れるかは限界があります。1秒で100文字は話せないですよ。聴覚は時間から自由になれませんから、10秒間で何を話せるのか、10秒間で相手の言ったことの本意をどこまで理解できるのかが大事になります。声の表情は、声色、イントネーション、スピード感、どこに強調が入るのかなどから読み取るものですが、それは明らかにネットとかスマホとかで僕らや若い人たちが育んで来なかった文化の1つですよね。

そこに一歩また戻るのかもしれません。あるいは、新たな空気の読み合いが始まって、僕らのような年寄り連中には分からないようなイントネーションが出てくるのかもしれません。「今こういう風に言ったけど、そういう意味じゃないのはわかるでしょ?」と若い人たちから言われるようなコミュニケーションの方法が出てくるかもしれません。

一旦、聴覚というのは消えたわけです。聴覚から視覚文化に振り切った。一旦消えてまた戻ると、新たな文化、新たなルールが出てくるものなんです。子どもたちは、今とはまた違った独特の空気を読む文化を作っていくのでしょうね。スマートスピーカーネイティブたちが大人になったら新しい文化が出てくると思いますよ。

前編後編の2回にわたり、池谷先生の脳研究の話をお伝えしてきました。これからの子ども達、スマートスピーカーの未来も楽しみですね。
脳研究者・池谷裕二氏に聞く

SmartHacks Magazine 編集部

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